福島県南会津「息吹~南山義民喜四郎伝」越谷公演

『わしは今、一点の曇りもなく、微塵も後悔などしてはおらぬ。

この地で生まれ、この地で過ごし、この地で果てる。それが我らの、ささやかな望みじゃ。
家族を愛し、仲間を信じ、このふるさとで栄える。そんな当たり前の夢をかなえることも出来ぬ世など、あってはならぬ。

南山に生きる、南会津の民よ。たとえこの身は朽ち果てようとも、我らが想いを忘れてはくれるな。

泣くな、泣くな村の民よ。
この先何が起ころうとも、我らの魂は、時をかける息吹となって、いつでも、どんな時でも、この福島に、新しい風を吹かせてくれよう。
今何をなすべきか、魂の声を聞け。天の声を聞け。
我らが道は、我らの意志で、切り開くのじゃ。』

処刑される直前の、義民・喜四郎の台詞です。


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「息吹~南山義民喜四郎伝」、南会津の子供たちが演じる舞台、12日、越谷で再演されました。
時は今から300年ほど前、1720(享保5)年。江戸時代中期、将軍徳川吉宗の頃。南山御蔵入領(現在の南会津)は幕府直轄領でしたが、幕府財政悪化の影響で年貢取り立ては厳しさを増し、農民たちは「座して死を待つ」状態に追い込まれていました。このため農民の代表者が江戸に赴き、幕府に直接その窮状を訴えます。この直訴というやり方は当時「御法度」であり、結局代表者6名は斬首、獄門とされてしまいます。(この他、江戸で牢死した者も9名。)
しかし農民たちの要求は幕府も全く無視することはできず、南山を幕府直轄領から会津藩への預け支配に切り替えることで、その訴えを認めました。処刑された喜四郎ら6名は、「義民」として南会津の人々の間に語り継がれることとなります。

この「南山御蔵入騒動」という実際にあった事件をもとに創られたのが「息吹~南山義民喜四郎伝」です。


主人公の喜四郎は、高潔で意志の強い男ですが、平凡な若い農民でした。妻との間に娘があり、家族を心から愛していました。その親友でやはり「義民」となる儀右衛門も同様で、息子が生まれ、その成長を楽しみにしていました。
しかし幕府から派遣された代官の苛政はひどくなるばかり。このままでは南山の多くの農民が犠牲になってしまうと危機感をつのらせた喜四郎は、御法度と知りつつ、その身を捨てて、代表者に加わり幕府に直訴することを決意します。
喜四郎たちが幕府と交渉している間に、代官所は地元に残った農民たちに激しい切り崩しを行います。地元との連絡のため南会津に戻った喜四郎は、その地で逮捕され処刑されることとなります。その時の言葉が、冒頭のものです。

台詞の中に「福島」という言葉があるのは確かに不自然ではあります。江戸時代にはそもそも「福島県」という概念はあり得ません。
しかしその不自然な「福島」という一言を入れることで、この長い台詞全体が、江戸時代の義民の最期の言葉というだけでなく、生々しく現代に(というよりまさに現在に)あてはまる言葉となってきます。
「今何をなすべきか、魂の声を聞け。」

(なおこの台詞は、会場で購入した今年3月25日の沖縄公演DVDからおこしました。越谷公演での喜四郎の台詞もこれと大差なかったと記憶しています。特に「福島」の一言ははっきり聞き取れました。)


驚いたのはこの舞台、前日に会ったばかりの子供たちが演じていたことです。
「チーム息吹」という、南会津の小学生から高校生までの子供たちを中心にするのですが、特別出演として北海道恵庭市の中高生、大阪府狭山市の小学生のグループが参加、他に会津の和太鼓保存会の高校生3名、福島から避難して沖縄に在住している中学生が1名加わっています。もちろん、それぞれの場所で練習を積み連絡も取り合っていたのでしょうが、一堂に会したのは公演前日だったそうです。

舞台は「現代版組踊」という、いってみれば沖縄版ミュージカルです。沖縄の伝統芸能「組踊」を、演出家の平田大一さんが現代風にアレンジしたもので、当初は沖縄で演じられていましたが、現在は福島県でも演じられています。
いわばミュージカルですから、全体の息が合わないと成り立たないのですが、大人の劇団さながらの観る者を引き込む舞台でした。被災地の子供たちが演じるチャリティ公演ということはしばらく忘れて、真剣に観ていました。
時々、シーンの合間などに「全国各地がら参加しているとパンフに書いてあったけれど、合同練習は大変だったろうな」と思っていましたので、最後に事務局の方(?)が「昨日会ったばかり」と言われた時には信じられない思いでした。(正直、今でも信じられません。)

「昨日会ったばかりの子供たちが、これだけの舞台を作り上げるのです。我々大人にも、もっとできることがあるのではないでしょうか。」

事務局の方の言葉が、喜四郎の台詞とともに、耳に残っています。


「息吹~南山義民喜四郎伝」は、次回、11月24日(土)、南会津で公演されるそうです。詳細は未定とのことですが、後日コチラのホームページで発表されるそうです。
http://www.minamiaizu.jp/ibuki.html

この記事へのコメント

たまごサン
2012年08月14日 10:51
私も観ました。
息吹~とっても良かったです。
宜しければ、FBにこの記事をリンクさせてください?
いかがでしょうか?
2012年08月14日 16:02
たまごサン 様
コメントありがとうございます。
「息吹」を通して、子供たちの思い、伝わってきましたね。
リンクのお話、光栄に存じます。よろしくお願いいたします。少しでも多くの方にこの舞台のことを知って頂ければ幸いです。

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